バックフロートBCDを使ったことはありますか?
日本では使用するダイバーが少なく、インストラクターでも使ったことがないという方が多いかもしれません。
ところが欧米やアジアなどの海外では好まれて使われており、講習時に使用されることも少なくないようです。なぜでしょうか。
バックフロートBCDの利点について、深く考えてみませんか?
BCDにはジャケットタイプ、ショルダーベルトタイプ(フロントアジャスタブルタイプ)、バックフロートタイプの3種類があります。国内では、ショルダーベルトタイプを使用されることが多いようです。
これらの違いは浮力位置と体にどう固定するかにあります。そして実はこの違いが、水平姿勢の取りやすさや快適性に大きく影響するのです。
水平姿勢はなぜ必要か?
そもそも、なぜ水平姿勢が必要なのでしょうか。
水平姿勢が取れず上半身だけが起き上がった斜めの状態では、上半身の広い範囲で水の抵抗を受けてしまいます。
このような姿勢は、フィンキックにも影響します。
上半身 と共に太腿までもが立ち上がるために蹴り上げにくく、キックの可動域が制限されてしまうのです。それにより推進力が低下するだけでなく、酸素の消費が多くなるため足の筋肉へ負担も増え、疲労を招いてしまうのです。
水平姿勢を左右する浮力位置とウエイトの重心
ジャケットタイプではジャケット全体が空気袋(ブラダー)となっており、背中から肩や胸部、腹部に空気(浮力)が入ります。
ショルダーベルトタイプは肩の部分がベルトになっており、背中と腹部に空気が入ります。
つまりジャケットタイプとショルダーベルトタイプの浮力は、ダイバーの体の前面と背面にあります。
この浮力位置が上半身を起き上がらせてしまう原因になっています。
ダイバーの体にかかる重さは、シリンダーとウエイトです。体の背面ではシリンダーの重心がBCDの浮力に載ります。一方、ウエイトベルトの重心はBCDより下に位置するためにその浮力には載りません。したがって腰が沈み、体の前面の浮力が上半身を起き上がらせてしまいます。その傾きがさらに浮力の中心を肩や体の上部に集中させてしまうため、水平姿勢を取りづらくするのです。
一方バックフロートでは、ブラダー(バックフロートではウイングと呼ばれる)が背部にあり、背中からお尻にかけて浮力があります。
そのためシリンダーの重心は背面の浮力で、ウエイトベルトの重心はお尻部分までカバーされた浮力によって持ち上げられるようにしてバランスを取ることができるので、体が傾くことなく水平姿勢を取りやすくするのです。
バックフロートの最大の利点とは、このバランスの取りやすさ、水平姿勢の保ちやすさにあります。
3点固定が体勢を安定させる
バランスと快適性に大きく関わるのが体への固定と調整です。
ウエストの固定ではシリンダーの重心が体と離れないように、肩の固定ではシリンダーの重心が左右にずれることを防ぎます。さらに、股を固定するクロッチストラップはシリンダーの重心を肩からお尻までずれることなく背中全面で受けられるようにします。
実はこの3点の固定が、体のバランスの取りやすさに大きく寄与しています。
ジャケットタイプはウエストベルトによる固定、ショルダーベルトタイプは肩とウエストのベルトによって固定します。
こうしたベルトは体に合わせて長さを調整できますが、ジャケット部分は既製サイズであるため、ベルトだけでは完全にフィットさせることが難しいというデメリットもあります。
バックフロートではウエストと肩のベルトに加え、クロッチストラップがついているものもあります。また全てのベルトが体にぴったり合うように調整できるため、ダイバーにとってより個別的なフィットが可能です。
バックフロートタイプではこの3点固定によってシリンダーの重心が背中でずれることを防ぐため、ダイバーの体勢を安定させることができるのです。
バックフロートが選ばれている理由は、それだけではありません。
バックフロートでは腹部にブラダーをもたないために、呼吸を圧迫しないのも大きな利点になっています。
ジャケットタイプ、ショルダーベルトタイプのようにブラダーが腹部にある場合、その膨らみによって圧迫され、ダイバーは呼吸に違和感を感じてしまいます。
バックフロートではこのかさばりがないため、呼吸だけでなく、ダイバーの動作を制限することのない快適性が得られるのです。
バックフロートBCDにはこうしたさまざまな利点があることから、より快適なダイビングを実現できるとして海外では注目されているのです。
「水平姿勢を体感してもらうため、講習で使用」
数少ないとはいえ、国内でも積極的にバックフロートを講習で使用するショップもあります。
「水平姿勢が取りやすく、中性浮力の習得も早いので、中性浮力講習やアドヴァンス講習でバックフロートBCDを使用しています。浮力位置の違いが水平姿勢にどのように影響するのか、受講者に体験してもらっています」と話すのは、関西の人気ダイビングショップのインストラクターです。
同インストラクターは、バックフロートBCDの排気システムも導入のきっかけになっていると話します。
「バックフロートでは排気も非常にスムーズです。お尻側のバルブで微調整も可能。インフレーターホースがBCDの真ん中についているタイプでは、体を傾けることなく簡単に素早く排気できるため、バランスを崩しません。また体の前面に何もないというのも、呼吸しやすく動きやすい。それでいて見た目も格好いいと、当店ではバックフロートを好むダイバーが多いです」。
バックフロートは水面での浮力確保時に前のめりになるというマイナスイメージを持たれがち。それについては「エアを半分だけ入れ、お尻から背中にもたれる姿勢の取り方をしっかりフォローしています。受講生はそれにすぐ慣れ、水面姿勢への抵抗感はほとんどないようです」と話していました。
こうしたバックフロートBCDの利点と適切な使い方を受講者に丁寧に教えるこちらのショップでは、ほとんどのダイバーがバックフロートBCDを選択しているそうです。
日本でバックフロートBCDが一般的な使用に至っていない理由について、「現地サービスではバックフロートを使用するダイバーは増えてきています。巷でも徐々に人気が高まってきていると感じていますが、特定のメーカー製品しか扱っていないというような都市型ショップなどではバックフロートを置くことが少ないのかもしれません。バックフロートに関する情報もまだ少ないのだと思います」と話します。
ダイビングの快適性や楽しみ方を大きく左右するのはギア。
だからこそダイバー自身が自分に必要な、自分に合ったギアを選ぶことのできる機会と選択肢は多くあるべきだと考えます。
スキル習得に役立つもの、理想のダイビングスタイルを実現できるものがあるのに、その情報が足りずにダイバー自身が選ぶことができないという状況は避けたい。バックフロートBCDはまさにそうした状況によってダイバーに届いていないギアの一つであると感じています。
バックフロートBCDを取り入れているダイビングショップ
・Urban Sports(山形)http://www.urbansports.jp/index.html
・Lanai Diving School (千葉)https://alohaloungelanai.com/
・M’s Diving Adventure(東京)https://msdiving.jp
・葉山のダイビングショップNANA(神奈川)https://nana-dive.net
・稲取マリンスポーツセンター(静岡)https://i-mc.co.jp/xdeep-start-lineup/
・ダイビングスクール イオ池田店(大阪)https://www.coralsystems.co.jp/ikeda/index.html
・ダイビングスクール イオ江坂校(大阪)https://www.d-io.jp
・ダイビングスクールなみよいくじら(大阪)https://www.namiyoi.com
・DIVE KOOZA(和歌山)https://dive-kooza.com