今日もあなたの腕で安全なダイビングを示すダイブコンピュータ。
水深と潜水時間から無限圧潜水時間を計算してくれる、ダイビングに欠かせないこのアイテムは、一体いつ、誰が考えてどのように開発されたのでしょうか。
ダイブコンピュータの誕生には、数え切れないほどの挫折と挑戦がありました。
遡ること今から70年ほど前、時は1951年。
スキューバダイビング器材の改良を検討するため、カリフォルニアのスクリップス海洋研究所では、米海軍と水中水泳選手委員会のメンバーによって秘密会議が開かれていました。そこで定められたのが「ダイバーの体への窒素負荷を監視するための装置」の開発を最大の優先事項にすることでした。
同研究所員 ゴルドーン・グローブス氏とウォルター・ムンク博士がそれについて提唱したのは秘密会議から2年の月日が経ってからのことでした。
減圧と反復ダイビング時の体内残留窒素に対する最適な浮上速度を計算する必要があり、空気の消費量も測る機能が必要であるとしたのです。唱えられたのは、電動式のアナログコンピュータでした。
世界初のダイブコンピュータ誕生と、挫折の連続
これを受け、アメリカのメーカーFoxboroは、浮上時の危険性をディスプレイに示しダイバーに知らせることができる機器を開発。その名はDecomputer Mark、アナログ式でしたがこれが世界で初のダイブコンピュータが誕生したのです。
ところが Decomputer Mark Ⅰはテストダイビングを重ねる度、その計算に一貫性が得られず、結局ダイビングテーブルを用いた方が正確であるという皮肉な結果に。数年に及ぶ研究者たちのたゆまぬ努力とダイブコンピュータ実用の夢は、いとも簡単に破れてしまいます。
いくつものダイブコンピュータが生まれては消えるのを繰り返したのが、1960年代です。
1963年に登場したのが、イタリアの会社SOSが開発したPoseidon 5でした。
水深とボトムタイムから減圧停止時間を計算するものとして開発されましたが、深いダイビングや反復ダイビングではこれも計算が不正確であり、米海軍により使用を禁じられてしまいます。
同年にはTexas Research Associatesというメーカーから電気バッテリー式の TRACORも生まれました。しかし冷たい水温での著しい電力の消費に、ダイブ時間が大きく制限されると共に、システムの故障も絶えませんでした。
アナログからデジタルへ。それでもダイバーの手には届かなかった
1970年後半に入るとダイブコンピュータのデジタル化が進みます。
そこにCTF Systems Inc.から登場したのがXDC-4でした。正確なうえ、ミックスガスにも対応するものでしたが高額すぎて一般ダイバーにとってはとても購入できるものではありませんでした。
1980年代に入りテクノロジーは急速に発展。ようやく一般ダイバーの手に入るかと思われたのが Orca Industries Inc.によって開発されたEdgeでした。米海軍が使用するダイブテーブルに基づいて作られ、ipodのようにコンパクトな形状でしたが1日に1台と生産能力に著しく欠け、これも一般ダイバーの手に渡ることはありませんでした。
一般ダイバーが手にした、初めてのダイブコンピュータ
多くのダイバーが待ち望んだダイブコンピュータを手にする日は1984年にやってきます。
スイスの会社Divetronicから、浮上速度警告も兼ね備えたDecobrainが登場、ヨーロッパを中心にようやく一般ダイバーが手にし始めます。
その3年後の1987年、マリンコンパスで知られたフィンランドのメーカーSUUNTOがSME-MLを開発。正確性と視認性、そしてなんと10時間ものダイブログを記録できるという機能性に優れたものであり、ダイブコンピュータはダイバーへ一気に普及します。
そして1997年に登場したのが世界初となる腕時計型のダイブコンピュータ、SUUNTO Spyder 。腕時計のように情報をすぐに確認できるという利便性が、現代も変わらないダイブコンピュータのスタイルを作り上げたのです。
ダイブコンピュータが誕生し、困難だった正確性と強度を高めながら、安定した生産性と価格でダイバーの腕に辿り着くまで実に半世紀、50年近くもの年月を要しました。
そしてダイブコンピュータは今も、止まることなくアルゴリズムの研究がなされ、より精密な安全性が追求されています。しかし基本的なその機能は1951年に行われた秘密会議で挙がった「ダイバーの体への窒素負荷の監視」であり、これからも変わらぬダイブコンピュータの存在意義です。
変わり続けるのは、ダイバーへの有益性。
Bluetooth接続やUSB充電、スマートウオッチ機能など、今を生きるダイバーたちへの高い利便性と快適性、ダイビングだけでなくライフスタイルをもより良いものにするために進化し続けています。
参考:DIVE「THE HISTORY OF THE DIVE COMPUTER」 http://divemagazine.co.uk/kit/6597-history-of-the-dive-computer