あなたはウエットスーツに何を求めますか?
温かさ? 動きやすさ? カッコよさ?
ダイビング中に寒さを感じることなく、着心地良く、気持ちが上がるようなカッコいいウエットスーツはダイビングを安全で快適に、そして楽しくします。
そんなウエットスーツと、どうすれば出会えるのでしょう。
そのためにはウエットスーツがどのようにして温かさや動きやすさを可能にし、そのための欠かせない機能は何か、正しい知識を得る必要があります。
「ウエットスーツはオーダーメイドがおすすめ」とはよく言われます。そして国内のダイバーの多くが、オーダーメイドで購入しています。
ところが温かさと動きやすさの双方を実現には、たとえ「あなただけの」オーダーメイドスーツであったとしても限界があるのです。
オーダーメイドスーツの主な利点は「体にぴったりフィットさせてウエットスーツ内への水の流入を防ぎ、保温性を得ること」と言われます。確かに、水の流入を防いでウエットスーツ内に滞留した水を体温で温めることは、保温性にとって必須。
ところがウエットスーツの保温性は、それだけでは得られないのです。
大切なのは外の水の冷たさがウエットスーツの内側に伝わらないようにすること。そのためにはウエットスーツの生地であるネオプレンの性質がとても重要です。
なぜネオプレンは水温の伝導を妨ぐことができるのでしょうか?
ネオプレンは合成ゴムの素材。その特徴は、中に気泡(空気)をもっていることです。この気泡こそが熱を遮る断熱材となりウエットスーツに保温性を生み出すのです。
では保温性の高いウエットスーツを作るには、どのようなネオプレンを使用すればよいのでしょうか。
水圧はネオプレンを圧縮します。水圧に耐えることのできないネオプレンでは、内包する気泡も押しつぶされて小さくなってしまいます。それにより断熱効果が得られにくくなり、保温力が低下します。
そこで使用するのが水圧に強くて圧縮しにくいネオプレンです。水圧にしっかり抵抗して気泡が圧縮されにくいため、保温性を維持することができるのです。
それなら圧縮に強いネオプレンを使用すれば、高い保温性をもつウエットスーツができるはず。
ところが…。
圧縮に強いネオプレンは強さをもつかわりに柔軟性は高くありません。そのため関節などが動かしにくくなってしまいます。いくら温かさを得られてたとしても動きづらければ、また動きやすくても温かくなければ、ダイバーにとって快適なウエットスーツとは決して言えません。
では一体どうすれば、温かさも動きやすさも実現できるのでしょうか…。
そのためには動きが少なく寒さを感じやすい胸部や腹部、大腿などの部位には圧縮に強いネオプレンを用いて熱伝導をしっかり遮断し、高い保温性を保持します。
一方、関節など動きに関わる部分には圧縮への強さよりも柔らかく伸びの良いネオプレンを組み合わせて、しなやかな動きを可能にします。
こうした、体の部位毎に適切な機能を持つネオプレンの使い分けこそが、温かくて動きやすいウエットスーツを実現するのです。ですが、そこに国産スーツでの限界があります。
残念ながら国産では、体の部位毎に合ったネオプレンを組み合わせたウエットスーツを、適切なコストで作ることが難しいのが現状です。その理由は、日本のダイビング人口に起因します。
世界各国のダイバーに向けグローバルに展開する海外のブランドでは、その需要の多さから高機能な既製スーツを適切なコストで大量に生産しています。優れた快適性を実現するために多種多量のネオプレンを仕入れ、一着のウエットスーツに数十種類ものネオプレンを使い分けるなど複雑な工程で作るブランドもあります。
一方、世界に比べて圧倒的にダイバー人口が少ない日本で、国産メーカーはその国内需要のみに向けて生産しています。したがって、多種のネオプレンを組み合わせて作るような複雑な工程は到底生産性に見合わず、一種類のネオプレンのみで作られているウエットスーツがほとんどです。
だからあなたの運命のウエットスーツは、必ずしもオーダーメイドでできるとも、また日本で作られるものとも限りません。
温かく動きやすく、ダイバーが最高に快適だと感じられるウエットスーツ、それは適切なネオプレンの使い分けによってのみ構成されるのですから。